
ガズーバ!

奈落と絶頂のシリコンバレー創業記
[出版社]インプレス
[主著者]大橋禅太郎


「ハローではなくガズーバと言って電話に出る」――。本書の一節を読んで、正直うらやましいと思った。スタッフがにこやかに電話に出る姿が目に浮かび、会社創業者としては何ものにも変えがたい、幸せな時間を過ごしているのがよくわかる。しかし、そこに至る道のりは大変なものだった。本書は、筆者が中東の石油探索の仕事から転じて、シリコンバレーで起業するまでの道のりを描いたものだ。日本人がシリコンバレーで起業することの大変さがひしひしと伝わってくる。 特に、自分でつくった会社なのにCEO(最高経営責任者)になれなかったくだりは、我々日本人としては考えさせられる。資金を提供してくれるベンチャーキャピタリストからCEO就任を否定されたのだ。なにも経営能力が不足しているというのが原因ではない。理由は「英語力」。「ゼンの英語はプロのCEOとして通用するものではない」――。こう言い放たれた著者は、創業のためには仕方がない、と副社長に収まる。当然と言えば当然だが、しっかりと意志の疎通ができる英語レベルでもCEOとしては否定される現実にショックを受ける読者も多いことだろう。
しかし著者は、困難にもへこたれず、立派に起業家として会社を立ち上げる。この姿勢には感服する。彼の会社を買収したいという大手企業からの提案が、逆にその企業がほかの企業に買収されることになり、電話1本でダメになった話など、米国企業間のドラスティックな動きも垣間見ることができる。ほかにも興味深く、実践的で、また楽しいエピソードが数多く描かれている。
後半は、シリコンバレーで起業するための、生の声でつづられたマニュアルとしても読むことができる。専門用語やアメリカ独特の言い回しには、親切にも別途本文外にひとつひとつ説明がついているので、一般の人にも楽しめるつくりになっている。困難に負けずシリコンバレーで起業したい人はもとより、アメリカの起業事情を生の声で知りたい人にもおすすめの1冊だ。
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