|
|
玉井美子
ピアニスト [ 文化・芸術 ]
|
|
|
|
玉井美子
[インタビュー]
|
後戻りは出来ないですから、物事を前向きに考えましょう(1)
2006.11.19
[ TOPBRAIN RADIO ] あのひとの美意識を聴く!
|
|
自分の努力というのを怠ってはいけないと思います。
|
体の動きやその音の出し方によって、お客様に伝える仕事
植松 本日はインターナショナルに活躍されているピアニスト、玉井美子さんをお迎えしております。宜しくお願い致します。
マダム 宜しくお願い致します。
玉井 宜しくお願い致します。
マダム 玉井さんとは主人のオペラの先生を通して、私のパーティーに一度お越しいただいたことがご縁で、今日この場にゲストとしてお越しいただくことになりまして、有難うございます。
玉井 有難うございます。
マダム CDを聞かせていただくと、本当に透明感があり繊細で美しい音色で演奏されるので、今日はその弾き方の秘訣、それから玉井さんが日頃意識していらっしゃる美意識などを中心にお伺いしたいと思っております。美しい音を出すためには、指を立てるよりは伸ばしたほうが柔らかなタッチになると連載で書かれていらっしゃいますけど。
玉井 ええ、そうですね。指を立てて弾くパッセージが必要で、そういう音がふさわしい時にはそのような弾き方を致します。でも人間、生活の中でゆったりとしたエレガントな空間を保つためにはやはりしっとりと動きますよね。それと同じで、ピアノの指の動きも滑らかに動かしたい時は緩やかな動きというのも求められると思うんですね。
マダム やはり立ててガツガツと弾くよりは少し倒した感じに。
玉井 そうですね。倒したというか、伸ばしたと言いますか。
マダム 私も小さいとき、ほんのちょっとだけピアノをしたことがありまして、ここに卵を入れたように弾く、なんて。
玉井 はい。初歩の方にはやはりそのような意識を持っていただきたいですし、私達は伸ばしても、ただべっとり伸ばしているわけではありませんで、ちゃんと緊張感をどこかに保っていなければいけません。例えば“休め”という姿勢で本当に休んでもだらっとした形ではみっともなく見えますので、伸ばすと言ってもどう伸ばすと美しいかということは考えたほうがいいと思いますよね。
マダム なるほどねぇ・・・。やはりどんな曲でもたった一つの奏法で弾くのではなく、ということもこの連載では書かれていらっしゃいますね。
玉井 はい。今年はモーツァルトの生誕250年ですのでモーツァルトの作品をよくお聞きになられるかと思うのですが、彼の音楽は全体的にはとても明るく開放的ですけど、その中にやはり喜怒哀楽が大変たくさんありまして、天才的にいろいろな場面をつなげていく作曲家だと思うんです。ですから私達演奏家はその都度その都度、この場面にはどんな奏法が似合うかを自分で前もって計画を立てて、体の動きやその音の出し方によってモーツァルトが出したかったメッセージをお客様に伝えられるように日々考えて努力しております。
相手を出してあげたい時、それによって逆に自分が輝く時がある
マダム 世界中で演奏していらっしゃるのですが、日本のお客様の反応と、ボストン、オランダ、ロシアのお客様の反応はどんな感じで違うのですか。
玉井 最近、日本のお客様も一緒に楽しんで下さる方が増えてきて下さっていますし、お勉強なさっていると思うので、聞き方というのは私がピアノを始めた頃とはずいぶん違うと思うのです。私は海外行くことも多いですので、日本での文化・習慣とヨーロッパ・アメリカでの文化・習慣というのは違いますし、アメリカとヨーロッパでも文化と習慣は違いますから。
マダム 面白いエピソードなどはありますか?弾いていらっしゃるときに「こんな反応があった」とか。
玉井 例えば、やはり人間ですから間違えることがございますよね。間違えることとかいろいろあっても、最後まで伝えていくという姿勢はやはり変えないで演奏したときの拍手の大きさは、ヨーロッパ・アメリカのほうが大きいような気がいたしますね。
マダム あぁ、そうですか。
玉井 やはり日本はまだ間違えてはいけない、という習慣もありますし、きっちり物事をしなければいけない、というのはまた素晴らしいことでもあるんです。子供さんを教えさせていただいていても日本人のほうが親御さん達もディスプリン(discipline=忍耐力)を養うということを目的になさっている方も多いです。向こうは褒めて伸ばす教育ですので、その辺の違いでやはり聴衆の層が変わってくることがありますよね。でもやはり何かを伝えたいという本当に一生懸命な気持ちがあって最後まであきらめずに、捨てないで本当に伝えきれた、と自分で思った時にはやはりそれなりの反応があります。それはもう万国共通ですし、私達は聴いていただいたお客様に大変感謝していますし、その気持ちというのはきっと伝わっていると思います。
マダム 拍手の大きさが違うなんて面白いですね。
玉井 そうですね。あと、反応なさるところが多少違うことがありますね。
植松 演奏している最中の反応。
玉井 ええ、そうですね。例えば日本人が大変好む作曲家、ショパンもそうですけど、ショパンはもしかしたら日本の中では割とエレガントで、男性的というよりはしっとり感がある作曲家と思われていると思うんですね。確かにそうなんですけれども、彼の音楽を本当に見ていくと非常に突き詰めて考えている部分や、構成がとてもしっかりして、非常に男性的なところがあるんですね。ショパンを男性的に表現した時に反応が意外に「え?ショパンらしくなかったよ」と言われたことがありましたね。
マダム 曲の持つイメージみたいなものがお国であるのかもしれませんね。
玉井 そうですね。そういうものが作られているのかもしれないですね。ですから例えばドビュッシーという作曲家の場合はとても毒舌といいますか、ひょうきんなところもあるし、人をシビアに皮肉的にも見ているところもある。だけど非常にあったかく上から眺めているという、そういう音作りをしたいなと思って出した時に、フランスで演奏した場合はもちろんフランス人ですからドビュッシーは、フランス語が浸透しているところですよね。フランスの言葉というのはどちらかというと唇をたくさん使います。ですからやはりそういう音色というの、そしてその作曲家の持つ特性というのを出した時に“ブラボー”が出ます。でも日本で毒舌の部分を取り入れてひょうきんに弾いた時に、多分楽しんで下さってはいるんでしょうけど、「あれ?今の演奏は皆さんにどんな風に受けたのかな?」とちょっと不安になる時もありますね。
マダム 反応があまり返ってこなかったりするわけですか?
玉井 ええ、そうですね。その時に多少悩んだりはしますが。
マダム 弾きながら自分の弾き方を変えていったりなんていうことも。
玉井 そうですね。多少、変えたくて変えているわけではないんですけども、その時によっての反応で「あぁ、こちら側のほうがお客様が求めていることなのではないか」と察して、ステージの上でそれを感じながらその都度反応していく、ということはございます。
マダム そうですか。
植松 例えば女性的な曲を男性的に演奏するという時に何か心がけや見せ方とか、技術以外に精神的な部分でもあるんですか?
玉井 今、私がお話した部分はどちらかというとソロの部分ですけども、私達は他の演奏者とも室内楽などで共演いたしますよね。例えば由美子さんを紹介していただいた私の友人である声楽家の木村茂さん。彼と私の演奏というのは彼が主役になります。私が伴奏者ですから脇役、サポーターになるわけですね。その時にやはり自分の役割は考えなければいけなくて、ソロの時には自分が表に立っていいわけです。その時というのはやはり自分が大きく、最も美しく、輝いて見えるように、動きも大きくていいし、呼吸も深く吸ったほうがいい。だけれども、脇役になっている時に本当に自分が出ていいところもあるのですが、相手を出してあげたい時、それによって逆に自分が輝く時がありますよね。その時というのは動きがやはり多少小さいとか、呼吸も多少浅くなる、ということはありますよね。そういうことは普段の生活でも心がけたいな、と思っております。咄嗟には出来ないことですから。
|