□「天外の経営塾」が教える企業再生の手法――――ソニーが内発的動機から外発的動機に変わった瞬間に、天外さんは当事者としてそこにいて、変わっていく姿をご覧になっていたと思うのですが、すぐ変わってしまうものなのですか。それとも少しずつ、じわじわと変化していくものなのでしょうか。
これは何十年もかけてだんだん、だんだんお湯が冷めていくように、“燃える集団”が減っていったように思いますね。だからものすごく急激に変わったということではないけれども、だんだん温度が下がってきて、そこに成果主義をドーンと導入してしまった。成果主義を導入した途端にそれが破綻に向かってしまった、ということだと思います。――――時間をかけて変化をしたということは、当然すぐには戻らないということでしょうか。一旦その道に入ってしまった企業の流れというのは、簡単には“燃える集団”に戻れないのでは?
いや。やりようでは戻れると思いますけどね。ただ相当思い切ったことをやらなくてはいけないと思います。今私は、それに関して主として中小企業の経営者を集めていろいろな講習を始めているんです。「天外の経営塾」といいまして、例えばアルマックや日本経営合理化協会や、来年にはあと2つ別のところでも開かれる予定です。それはきちんとやれば、どなたでもできることだと思います。それをお伝えしようとしてきて、そこで気が付いたことをさらにお伝えしようとしているわけです。――――最近は多くの経営者の方と塾を開いてご指導されているのですね。
はい。一応、天外塾と呼ばれていますが、主催者はそれぞれのコンサルタント会社で、そこで4時間ずつ6日間の集中セミナーのようなものをやっております。――――そこに参加されるのは経営者の方なんですね?
そうですね。例えば神田昌典さんが経営されるアルマックでやっているセミナーにはサッカー日本代表の元監督岡田武史さんとか、日本のメンタルコーチングの第一人者である白石豊さんとかも来ておられますし、IT長者がゾロゾロ来ていますね。何十億儲けたような人もいますから、なぜそれだけ儲けた人がわざわざ僕の話を聴きに来るんだ、と思いますけれども、そういう方がたくさんみえます。□経営の理想のカタチとは?――長老型マネジメント――――本のテーマについてお話をうかがいたいのですが、ある意味マネジメントというものは昔から大事なキーワードであって、そこには上司と部下の関係、そこにおいてのコミュニケーションがあると思います。天外さんがその本質的な部分で『マネジメント革命』で一番伝えたかったことは、どの部分なのでしょうか。
先ほど申し上げた“燃える集団”を作るためのマネジメント、というのがあるわけです。そのためのマネジメントで一番の理想型を「長老型マネジメント」と言っています。
これは「指示命令をほとんどしない」。もっとも、ほとんどしないというのはちょっと言い過ぎで、実は非常に大きな危機に直面した時や、方向を大きく変えなくてはいけない時には、自分でハンドリングする。それ以外は一切指示命令をしないというマネジメント形態です。これは、ソニーの創業者である井深大さんのマネジメント形態を分析したんですけどね。そういうマネジメントのあり方みたいなものを、詳細にこの本の中で記述しています。――――井深さんのマネジメントを、間近でご覧になられたところから分析されたんですね。
もちろん。大変近かったですから。――――創業期のお話が本の中にも出てきますが、経営者と現場の社員の距離がものすごく近くて、喧々諤々やっている様子がうかがえます。そういう会社だったということですよね。
そうですね。たまたま僕は新入社員で配属された途端に井深さんのプロジェクトをやったものですから、毎日隣に来て議論を吹っかけてくるわけです。そういう雰囲気の中で育っているわけですから。――――経営者と社員となると当然階層があったりしますが、それでも話し合いではフラットに言い合える雰囲気だったのですか?
中間管理層が全面的な信頼関係の中にある時には、階層をまたいでも大丈夫なわけです。階層を尊重しなくてはいけないのは、やはり信頼関係が足らない時で、いろいろと障害が出てくる。
基本的に「長老型マネジメント」というのは、全面的な信頼関係が中心になります。それが確立できていないと「長老型マネジメント」はできないわけですね。「長老型マネジメント」をやろうとすると、どうしても相当徳がないといけません。マネジメントのほうに徳がないとできない。ですから頭で考えて、「あぁ、俺は明日から長老型マネジメントをやろう」と思っても、人間としてそこまでいっていないとできないわけです。(3)に続く