「神田昌典が時代を読む!」この番組は作家として、また経営コンサルタントとして活躍する神田昌典さんにこれからの世の中のトレンドを見通していただき、ビジネスパーソンが激動する時代をいかにして乗り越えていくべきか、アドバイスをいただきます。それでは神田さん、第4回目のお話よろしくお願いいたします。――――よろしくお願いします。
さて、今まで3回で私なりに時代をどういうふうに読んだらいいか、その読み方について皆さんと情報を共有してきました。「個人」から始まりまして「会社」の変革の読み方、それが「社会」とどのように関わってくるのかということをお話してきたわけですが、この3回に渡って「個人」、そして「会社」、「社会」、この全ての変革のプロセスを読むうえで私がとても大事にしているのが、「成長カーブ」という概念だったのです。
この「成長カーブ」という概念は、どちらかというと直線的に物事が変わるというよりも、むしろ螺旋的に、スパイラル的に時代というものは変わってくる、物事というものは変わってくる、ということなんです。ここが今までの概念と非常に大きく違うところだと思います。例えば人間であれば直線的に成長する。どういうことかというと、子供のときよりも青年期になったほうが人間として意識が成長している。そしておじいさんのほうがさらに意識が成長している、というふうに思うんです。ところが実際、細かく見ていきますと、私が前回皆さんにお伝えしたように、どうやら12年間のサイクルで区切っていくと、同じような課題が繰り返し起こっている。私が人間存在を見るとそういう法則にぶちあたるわけなんですね。
それから会社というものを見ても、ずっと成長していければそれは幸せに越したことはないのですが、今世の中の変化のスピードは非常に速いですから、1つの商品で60年も70年も会社が保つということはまずあり得ない。1つの商品でヒットしたとしても、今はライフサイクル的に考えると長くても6年ぐらいなんですね。6年経ってしまうと、また新しい変革プロセス、変化をもたらすような新しい商品を出していかなくてはいけない。
こう考えると、1つの会社というのも異なる商品、異なるライフサイクルを持つ商品が次々と出ることによって、会社ができてくるということがおわかりになると思うんですね。
1つの商品が子供から大人になって、おじいさんになって成熟していくと、今度は衰退にいくまでに、すなわちおじいちゃんが亡くなってしまう前に子供を生み出す、つまり新しい子供のよちよち歩きの商品を生み出していくというこのプロセスですね。おじいさんになっては子供が次を引き継ぐ、ということが連続して起こることがとても大事なんです。
こうした直線ではなく、螺旋的に世の中が成長するプロセスというのは、あまり最近まではなかった考え方なんですね。どうしてなかったかというと、特にビジネスについて考えてみますと、今までは会社の寿命というのがすごく長かったんです。今まで会社は寿命30年と言われていたのですが、今は10年しかないんですけどね。その30年の中では、こういうことが起こっていたんです。
右肩上がりに伸びて、成熟期になると横ばいになるように成長していくじゃないですか。その真ん中のところを見てみたら、やっぱり直線なんですよ。成長しきったカーブが積み重なっていくことで、螺旋になっていくわけなんですよね。
ライフサイクルが長ければ長いほど、やっぱり途中は直線に見えるんですよ。ところが直線というのは、実を言うとその成長が弱まって、低まっていて、そして今度はまた新しいものがそこに積み上げられる。それを見ていくと螺旋になっているわけなんです。それは商品ライフサイクルや、会社のライフサイクルが長かったときにはわからなかったことなんです。
ところが今、商品ライフサイクルがグッと縮まってきまして、会社の寿命というのも30年から12年ぐらいに下がってきている。これが数年後にはおそらく10年になるだろうと言われている。こういう段階では、右肩上がりの時期が非常に短いものですから、そこだけを見てが直線だと言い切れないわけです。つまり12年経ったり、10年経ったりしたら今度はまた別のカーブが始まるわけですよね。そういうふうに積みあがっていく。この積み上がったものを別の角度で見ると、螺旋になってくるんですね。
非常に時代の流れが速くなってきて、商品ライフサイクル、会社のサイクルが非常に短くなってきたがゆえに、我々が何を考えなくてはいけないかというと、この直線ではなく螺旋で物事を考え始める、ということ。これがようやく注目を浴びてきたと考えています。
そういった考え方を持つ人にどういう人がいるかと言うと、僕が1年ほど前に完訳しました『バブル再来』という本の著者である、アメリカの経済学者ハリー・S・デント・ジュニアという人がいるんですけれども、彼が言い出しました。そして彼が「サイクル論」という、技術サイクルということと、それから世代間の人口、各世代がどういう人口構成になっているかという2つの考え方を組み合わせて、経済の予測をし始めたんですね。それは非常におもしろい予測で、直感的にわかる考え方です。
『バブル再来』という本自体は2004年にアメリカで出版されました。彼は、アメリカの株価が空前の大フィーバーになるということを2004年の段階で言っていたんですね。本来その前から彼は同じようなことを言っていたんですけれども、それが非常におもしろくて、技術サイクルというのは、彼の考え方では84年周期だというふうに言っているのですが、84年ごとに大きな株の上昇があり、それは技術革新に基づいた株価の上昇であると。
ということで、私は彼の考え方、人口構成とそして技術の螺旋的な進化というところをみて、この人の予測というのは非常におもしろいと思いました。ただ単に予測が当たる、当たらないではなく、こういう考え方でやればビジネスマンというのは経営しやすいだろうなという思いで、『バブル再来』という本を2006年に完訳して出したんですね。
大体翻訳プロジェクトというのは出版してから2年ぐらいかかるものですが、実際2006年以降、当初は景気は停滞していると言われていたんですが、急速に良くなっていますね。アメリカも株価は最高値を更新しているような状況にあるわけなんです。
彼が、今まで経済学者が経済というのは直線的に伸びていくというふうに考えていたところに、「実を言うと、経済というのは繰り返しの循環で成長していくんだよ」という概念を持ってきたんですね。これはある意味では、アメリカ的な考え方ではない。アメリカの考え方というのは基本的には直線的にいつまでも成長するという考え方なので、そういう考え方をとってこなかったんですけれども、このハリー・S・デント・ジュニアさんという人が十数年前から著作を出し始めまして、そして経済というのはサイクルで見ることがとても大事なんだ、ということを言い始めたんですね。
もう1人、マーティン・シェナルドさんというマーケッターの方がいるんですけども、この人も同じように成長カーブというものを見ると、実際には会社というのは直線的に成長するのではなく、それは螺旋の集積なんだ、すなわちSカーブであると。こういう積み重ねが会社を作っていくわけで、単一に成長していくのではない、ということを語り出したんです。
こういう方々が出始めてきたわけなんですが、さらにそこに非常に著名な作家さんが加わることになったんですね。その著者は誰かというと、『The Dip』という本を書かれたセス・ゴーディンさんです。『Permission Marketing』であるとか、それから『Purple Cow』という『「紫の牛」を売れ!』というタイトルで日本でも知られていると思いますが、こういった革新的なコンセプトを生み出したセス・ゴーディンさんが最近著書の中で言い出したことが、私と非常に考え方が似ています。
この考え方はどういうものかというのを、これからお話したいと思います。
(2)に続く