|
|
池上彰
フリージャーナリスト [ コミュニケーション ]
|
|
|
|
池上彰
[インタビュー]
|
「話す」「書く」「聞く」の3つの能力の磨き方(3)
2008.01.09
|
|
商談、会議、プレゼンでいかにうまく伝えるか ――コミュニケーションを円滑にする極意
|
□書類を早めに仕上げて“寝かせておく”ことの、こんな効果
――――本の中にはまたまだ面白い話が書かれていますが、もう1つお訊ねしたいのが“寝せる”ということです。これもいかにわかりやすく伝えるかという工夫の話の中で出てきますが、この“寝せる”というのは、要は“間をおく”ということですね。
寝かせておく、というニュアンスで。
――――これは一体どういう効用があるのでしょうか。
文章を書いて、さあ報告書がまとまった、と。すると自分では良いものができたと思っているわけですね。興奮状態です。それを客観的に見ることができないんですね。これでいいだろうと思ってそのまま出してしまうと、後になってから「あ、あそこが足りなかった」ということが起きてくるんです。だから締め切りのちょっと前に、まず原稿を完成させておいて、締め切りまでちょっと寝かせておくんですね。あるいはプリントアウトをして寝かせておいて、何日か経ってからそれを見ると、細かいところはどういうこと書いたっけ、とディテールを忘れているわけです。そうすると、全くの第三者として、他人の文章としてそれが読めるようになるんです。
――――そうすると、例えば掴みのところが弱かったとか、単純な間違いだとかにもより気付きやすくなると?
そうですね。あるいは、途中で論理の飛躍があるな、と。自分ではこれで合っていると思ったんだけど、このままだと飛躍していると思われる。この途中経過をもう少し書き込まなければいけないな、ということに気付いたりするんですね。
――――そういった意味では、いっぺんに全部仕上げようということではなく、あえてちょっと前に仮に仕上げて、一晩置くということでもいいのでしょうか。
そうですね。一晩置くだけでも随分違います。私もなるべくそういう風にしています。締め切りの前の日に書いて、プリントアウトしてしばらく置いておくんですね。で、その日家に帰るでしょ。そうすると、書いた原稿の「あそこ足りなかったよね」なんてことを結構思い出すんですよ。それをちょっとメモしておいて、翌日その原稿を改めて見てそこの部分を書き足すと、かなり完成原稿になりますね。
□論理的な文章には“接続詞”がほとんど必要ない!
――――なるほど。まだまだ沢山お訊ねしたいところなんですが、最後にお訊ねしたいのが、実はこの本の中で私が1番重要だと思うところなんです。それは「使ってはいけない言葉」。本の中には、私が普段よく使っている言葉が「使ってはいけない言葉」として出てきたりと、おそらくビジネスマンの皆さんも何気なく使っているのではないかと思います。例えば“そして”とか“ところで”などです。
“そして”とか“ところで”は、いわゆる接続詞ですね。文章で書く時に接続詞を入れていくと、何となく論理的に話が流れているかのように思い込んでしまうんですよ。本当の論理的文章というのは、接続詞はほとんどなくていい筈なんです。接続詞を使わないようにしようとすると、この文章は論理的に話が流れているかどうかを、注意深く見ることができます。“そして”とか“だから”というのをあえて禁じ手にして、書かないようにして文章を書いていこうとすると、なかなか難しいんですね。その時に初めて「これは論理的に流れている文章かどうか」ということを、注意深く見ることができるんです。あえて、接続詞をなるべく使わない。もちろん、それまでの話を全部ひっくり返すための逆説的な接続詞としての“しかし”や“だが”というのは最低限必要ですけれども、それ以外のものはなるべくやめること。それを自分に課していると、文章力が随分つきますよ。
――――“そして”や“ところで”といういわゆる接続詞が悪いのではなくて、それを使わないことによって自分の文章力が上がっていく、ということですね。
そういうことです。
――――自分の文章力を高める1つの方法として、接続詞を使わないで表現してみようという工夫をすると?
そういうことですね。
――――これは文章だけでなく、話をする場合でも同じですか?
はい。話をしている時に、私がこれだけは使っちゃいけないという言葉があります。便利な言葉なので。“いずれにしましても”という言葉ですね。よく、いろいろ話をして最後に「いずれにしましても、これは大事な問題ですね」みたいなことを言うと、「いずれにしましてもって、じゃあそれまで話してきたことは何なんだよ」ということになるでしょう。それまでの話を全部チャラにしちゃってやることでしょう。口癖でそういう方、いらっしゃいますよね。それはいけないんですよ。これまで延々としてきた話、「……というわけで結論はこうです」と言わなきゃいけないのに、「いずれにしましても」。いずれにしましてもって、じゃあ今まで話してきたことは何だ、ということになっちゃいますよね。
――――ついつい“いずれにしましても”という言葉は、まとめの言葉として便利なようにも思いますし、非常に使っている方が多いですね。
便利なんですよ。これも文章を書く上での接続詞と同じように、とても便利ですからあまり考えずに使っちゃうんですね。そうではない。今まで私は話をしてきた、こういう論理で話をしてきたんだから、最後の結論はこういうことなんだよ、という話の論理を、自分で改めて客観的に見て、きちんと論理的に話を終わらせなければいけないんですよ。“いずれにしましても”というととっても楽で、それをうやむやにさせてしまうんですね。
――――なるほど。プレゼンテーションの世界でも“いずれにしましても”というのを最後のまとめで使うと、それまでのプレゼンが無になってしまうということなんですね。
そういうことですね、はい。
――――これらを肝に銘じて、これからぜひ皆さんにやっていただきたいと思います。最後に、これからの池上さんはどういう分野に力を入れていきたいと思われていますか。
そうですね。様々な世界のニュースがありますね。でも、このニュースは一体どういう意味があるんだろうと、わかりにくいことがいっぱいあります。実はそのニュースの背景にはこんな歴史があるんです、とちょっと前に遡った歴史を知ると、今のニュースがとってもよくわかる。そのちょっと遡った前の歴史を書いていく。そういう仕事をしていきたいなと思っています。
――――はい。本日のゲストは『伝える力』の著者、池上彰さんでした。長い時間ありがとうございました。 今日は大きな学びが3つありました。1つは、シミュレーションをするということ。こういった収録の場合のリハーサルはもちろんですが、実際にリハーサルができない場面でも、自分の頭の中で「もう1人の自分」を持ってシミュレーションしてみる。この大切さを教えていただきました。そしてできれば、シミュレーションをするときは、子供の時分を持つということですね。そういうコツも教えていただきました。2つめは、「掴み」の重要性。これは私もついつい忘れてしまうのですが、愚直に起承転結で始めてしまう。でも、より魅力的に自分が伝えたいことを伝えるには、「掴み」が実は重要です。この「掴み」は突拍子もないことでいいと教えていただきました。それから3つめは、接続詞はできるだけ使わないということです。本の中では「使ってはいけない言葉」として、“そして”“ところで”など具体的に紹介してあります。そうした接続詞を使わないことが、自分の文章力を高めることに繋がるというお話でした。この3つをぜひ皆さんの参考にしていただけたらと思います。 それから最後に、この本の中からみなさんにご紹介したいのは、本の終わりのところを読んでいただきたいということです。何故かというと、“終わりに”の冒頭は「実はこの本はある陰謀によって実現しました」という掴みが書いてあるんですね。見事な掴みだと思います。その掴みを学ぶという意味でも、ぜひこの本を参考にしていただければと思います。 池上さん、本日はありがとうございました。
ありがとうございました。
|