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関橋英作
クリエイティブ戦略家 [ マーケティング ]
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関橋英作
[インタビュー]
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クリエイティブとは世の中を変える力(2)
2007.03.25
[ TOPBRAIN RADIO ] あのベストセラー著者に聴く!
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昔の成功体験や既成事実、固定観念に囚われていると絶対に変化することは出来ない
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過去の成功体験を捨ててみる
高城 なるほど。その辺りが今回のこの本のテーマにもなってくると思うんですけども、関橋さんの長年のお仕事は広告業界ですからテレビコマーシャルという、日本の王道ですよね。
関橋 まぁ言ってみればそうですよね。
高城 そこから始まったマーケティングが少し変わってきて、その辺りをベースにこの本を書くというきっかけになったんですか?
関橋 ええ、そうですね。ちょうど21世紀に入る頃、2000年を過ぎた頃から段々テレビコマーシャルが効果が無いんじゃないかという風に業界でも言われてきたんですよ。最近になってやっとそれは殆どの方が知るようになったんですけど、僕もその時すごく感じていて、このままいくと広告業界がシュリンクして3つとか4つだけになっちゃうんじゃないかっていう危険をすごい感じたんですよね。その頃から僕自身もずっとCMばかりやってたんですけど、すごい危機感を感じて違うことをしないと生き抜いていけないんじゃないかっていう気がしてた時にキットカットの仕事がたまたま来たんですよ。ですからすごい幸運でしたよね。
高城 キットカットって言いますと、宮沢りえさんのイメージがあって“Have a break,Have a Kit Kat”このイメージがあるんですよね。でもHave a breakとか、Have a Kit Katって使いますけど、イメージはピンと来ないですね。
関橋 そうですね。キットカットって日本に上陸して大体33年くらいなんですよ。最初の頃に12、3歳くらいの宮沢りえがバッキンガム宮殿のところでキットカット、キットカットってやってたんですよね。その頃は物理的なちょっと休憩、まさにコーヒーブレイクと一緒で。チョコレート業界ではポッキーがダントツで、ずっと離された2位だったんですよね。このままでいくとちょっとヤバいな、っていうことで“Have a break,Have a Kit Kat”の意味を調査したんです。
高城 なるほど。
関橋 一般の方、高校生をメインにですね。そしたら言葉は知ってるけれど、意味は知らない。
高城 分からないですよね、確かにね。
関橋 もともとbreakっていう単語の意味はもちろん休憩するっていう意味もありますけど、ちょっと立ち止まって次のことを考えてみるっていう、そういう意味もあるんですね。で、彼ら高校生に自分達にとって良いbreakは何かっていう調査をしたんですよ。例えば授業と授業の間のbreakっていうのは嫌いなんですって。何でかって言うと次また始まるから。
川崎 束の間の休憩だ、と。
関橋 これは逆にストレスが溜まるんです。ですからそれじゃなくて、お風呂に浸かってるとか、明日は何も無いぞとか、桜の樹の下でボケッとしてるとか。今の高校生って、受験、恋愛、家族、友達と彼らはものすごいストレスが多いですよね。ですから彼らが一番深層心理で望んでいるのは、そういうストレスからちょっとの間でも開放してくれるbreakじゃないかなっていうことを発見したんですよ。
高城 なるほど。じゃあそのマーケティングの結果に合わせて戦略を変えて、場合によってはコマーシャルの作り方もそうですけど、コマーシャルを捨てるみたいなこともしたということですか。
関橋 そうです。そういう心理的なものは15秒のCMで伝えきれないですよね。
高城 そうですね。
関橋 15秒ですから、あっと言う間に終わりますからね。ですから僕らはCMはとりあえず全部捨てる訳ではないですけど、いわゆるメインの座から降ろそう、と。
高城 CMの王様がCMを降ろしちゃったんですね。
川崎 昔はCMが王道であった業界ですけど、それがだいぶ変わってきたということですよね。
関橋 そういうことですよね。僕自身も本当にさっきの“Shall we Haagen-Dazs?”でCMでブランドを作ったという自負があったので本当にこれを捨てるべきか悩んだんですけど、そうしていかないと本当に高校生の心を、ストレスを開放してあげられることが出来なかったら意味が無いだろうなと思ったんですね。
高城 この本を読ませていただいて、過去の成功体験を捨てるということがものすごく大事だってことが書いてあったのですごく驚いたんですよ。
関橋 昔の成功体験だとか、既成事実とか固定観念に囚われていると絶対に変化することが出来ないっていうことに気が付いたんですよね。英語で言うと“from scratch”で、ゼロからもう一度白紙に戻してやり直そうっていうことですね。
川崎 普通、偉い人はなかなかそれを考えられないですよね。
広告業界の人に勇気を与えたい
高城 今回、本を書くのはこの時期っていうタイミングは何かあったんですか?
関橋 ええ。せっかく僕らがやって、これからのマーケティングにとってすごくヒントになるかなと思ったので、世の中が受験シーズンの時に出版したほうがやはりいろんな方の目に留まるし、と思ってこの時期に合わせて必死になって書きました。
高城 なるほど。それで2月という時期から本が出るという形にしていったわけですね。実際にこの本を発売されて是非こういった方に読んでいただきたいという読者のイメージってどういう方ですか?
関橋 基本的にはマーケティングとか広告をやっている方ですね。彼らも変わらなきゃいけないって思ってるんですよ、100人が100人。でも今までの20世紀って広告がすごく成功した時代なんですよね。今までのパラダイムに乗っかっていればお金は入ってくるからおいしいんですよ。マスマーケティングって効率がいいんですよ、パッて1つのCMをやればお金がドーンと入ってきますから、これは捨てられないんですよね。ですからそのジレンマがやっぱり踏みとどまらせてるんじゃないかなって思うんですよ。でも今はいいですけどあと5年後、10年後になった時に「どうしよう」って言ってももうどうにもならないところに行くので。やっぱり気付かせるっていうことは皆してるとは思うんですけど、実際に日本のブランドで日本のマーケットでこうやって違うことをやって成功した例を見せてあげることが一番勇気が出ることかなと思ったんですよね。
高城 成功体験というか、そういった部分を多少捨てて勇気を持ってやらなきゃいけないのかなって私は思いましたね。すごく印象に残った言葉が“リスクを取れるか”。広告業界のビジネスでリスクっていう言葉が出てきたのは、私初めてだったので驚きました。
関橋 リスクって取れないですよね。結局広告ってどれだけ効果があったか最後にトラッキングして調査をしますよね。で、調査の結果が悪ければ変更を余儀なくされるし、下手すれば報酬をカットされるわけです。そういう細い綱の上でビジネスをしているわけです。ですからリスクを取るっていうことを一番怖がるんですね。その典型的な例が、違うかなと思っていてもクライアントがこうしろって言うと、そうするんですよ。
高城 「おっしゃるとおりです」と。
関橋 で、失敗すると「そちらのお決めになったことですから」っていう、一応口実があるわけですね。
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