□大トロよりもコハダが儲かる!――これがトヨタの儲かる秘密
――――この本のタイトルである「餃子と高級フレンチ」の違いですが、一見すると、餃子屋さんの方が儲かるように思うんです。何故なら単品で、要するに原価が低い商品で回転率を上げていけば、収益は高まりますから、単純に考えて餃子屋さんは儲かりますよね。そして、高級フレンチは言ってしまえば儲からない、と断言してしまいそうに思うのですが、必ずしもそうではないと?
そうですね。ここで言いたかったことは、利益の構造が違うということです。餃子屋というのは、固定的にかかるコストは非常に少ない。一方、フレンチはものすごく豪華な演出をしてそこにお客さんを呼ばなくてはいけないから、どうしても固定費がかかってしまう。
また材料費を見ると、餃子は肉がいっぱい詰まっていますから材料費の割合はかなり高いですよね。もしかしたら8割、9割かもしれない。しかしフレンチの場合は材料費の割合、材料比率が少ないわけです。つまり利益の構造は、比較的材料に比べて高いものを売って、かかっている固定費を早く回収して、それで回収したら一気に利益を上げていこう、というものなんです。これが高級フレンチの商売のやり方。ですから、例えば雨が降ってお客さんの足が遠のいたら、一気に赤字になってしまうわけです。
一方、餃子屋の場合はお客さんがいっぱいいるけど、なかなか売上は上がらない。しかし、固定費が少ないものですから、例えば雨が降って若干1割、2割のお客さんが遠のいても、そんなに損が発生するわけじゃない。
それから、最後に商売が苦しくなった場合、餃子屋はすぐにたたんでどこかにトンズラすることも出来ますが、フレンチの場合はそういうわけにはいかない。
ということで、本では象徴的な例として餃子屋と高級フレンチというのを出したわけで、会社の中には餃子屋的な商品もあるし、フレンチ的な商品もある。会社の事業部も、これは餃子屋的な事業部もあるし、フレンチ的な事業部もある。そこのところを見極めて経営をしていかないと、ミスジャッジをしてしまいますよ、ということを言いたかったわけです。――――収益の構造が違う、ということを読者に理解してほしかったと?
そうです。――――本に登場するハンナというアパレル企業は、どちらかと言うとフレンチに当たるほうでしょうか?
フレンチを目指そうとしているわけですよね。――――つまり、会社によって目指す方向が違っていてもいい、高級フレンチでもいい、ということですよね。
そうですね。――――本には食べ物の例えをたくさん使われていますが、得に大トロの話は印象的でした。大トロとコハダの例ですね。大トロの方が利益率が大きいから今度は儲かるかと言うと、必ずしもそうじゃない、意外と利益は出ないというお話でしたが。
ええ。あの話、実は非常に奥が深くて、まず「儲かる」というのと「利益が出る」というのは意味が違うんです。「儲かる」というのは、お金がザクザク増えるという意味ですね。「利益」というのは、帳面上の利益が出ましたよ、売上から費用を差っ引いた差額が出ましたよ、でもお金がザクザクあるとは限らない、というものなんです。
では大トロとコハダはどこが違うかというと、その前に昔、池波正太郎さんの本を読んでいたら、「大トロは儲からないからあまり食べちゃ失礼だ」という話があったんですよ。ただ、その時によくわからなかったわけです。それから、最近トヨタシステム、1個流しとか1人屋台とか、要するに1個1個物を作った方がずっと会社にとっては利益が出るんだ、あるいは儲かるんだという話がある。どうもそこも理解出来なかったんですが、ある時寿司を食べに行って、ハッと閃いたんです。つまりコハダはものすごく少ない資金で買ってきて、売ってすぐお金に換えられるわけですね。でも大トロは、高くでドカンと買ってそれを1カ月間ずっと溜めておいて、徐々に消化していくわけです。つまり資金効率が全く違うわけですよ。
したがって起業家の方が「起業するためには今1500万円が必要だと一般的に言われていますよ。だからあちこちから1500万円集めてきます」と言う人がいますが、150万円を10回回すと1500万円と一緒なんですよね。資金効率ということを考えた場合に、コハダのほうが遥かに儲かるし、経営にとって有利なんだ、ということをここで言いたかったわけです。
これは、まさにトヨタがやっている、1個1個ものを作っていきましょうよ、という1個流しもそうです。それからキヤノンがやっている1人屋台と言って、1から10まで全部1人で作るという考え方と、コハダの考え方はイコールだということを言いたかったわけです。――――でもお寿司屋さんは大変ですね。大トロを止めるわけにいかないですから。
ええ、そうですね。ですからそこは客のほうが、お寿司屋さんのことを考えてあまり食べないように、ということでしょうね。――――余談かもしれませんが、大トロたくさん食べてはいけない、というのは何となくありますよね。高級なお寿司屋さんに行くと「続けて大トロばかり食べてはいけないよ」と言いますが、それもマナーということでしょうか。
恐らく池波正太郎さんは、その辺りの理屈がわかっていてマナーのことを言ったのでしょうけども、多くの人はそういう理屈をわからずに「そういうものかな」ということで、あまり食べないのかもしれませんね。――――この本の中には食べ物の話がたくさん出てきますが、この他にも考えたネタはありましたか?
このストーリーを考えた時に、まず食べたいものを全部リストアップして当てはめましたので、これ以上は当時は無かったですね。今考えると、まだまだ食べたいものはたくさん出てきましたので、次作はまた違うものを入れようかなと思っています。――――ラーメンとか?
ラーメンとか、あるいはベトナム料理とか、タイ料理とかですね。それから本場のイタリアンだとか、そういったのを入れたいなと思っております。(3)に続く