中国投資が転換期を迎えた今、撤退する企業は多い。
経済産業省『海外事業活動基本調査』データによれば、中国への進出について2004年には有効回答2657社のうち進出211社、撤退/移転が92社/119社の進出超過であったのに対し、10年では有効回答4243社のうち進出128社、撤退/移転が147社/19社の撤退超過となり、08年(撤退超過44社)、09年(撤退超過80社)から連続して撤退超過となっている。
会社清算は非常に大きなコスト、時間を必要とするプロジェクトである。負担が大きいため、例えば日系以外では撤退手続きを行なわずに夜逃げをする企業もあったし、日系でも清算費用のために増資をするなどの極端な例すら見られる。
一方、ぎりぎりまで生産を行なう必要がある場合も多いため、手続都合のみで清算計画を決めることもできない。
今回は、会社の閉鎖について特に注意すべきポイントをいくつか紹介してみたい。
【手続期間・費用】 純粋に手続自体だけを取り出してみれば半年程度で完了するものだが、実際には上述した折衝のために、1年以上かかることも多い。費用についても、会社規模によっては500〜1000万人民元かかるケースも決して稀ではない。
【労務】 ポイントの一つは従業員に通知するタイミングだ。
法的には解雇1か月前までに従業員に通知するか、即時解雇の場合には1か月分の給与を経済補償金とあわせて支払うことで解雇可能とされている。
しかし、実際には会社の生産計画と購買計画を見れば将来の生産量が分かってしまうため、両セクションのローカルスタッフから話が漏れてしまう結果にもなる。
一方で、解雇通知を行なった後は生産性が下がるうえ、設備や部品の盗難にあう確率も高くなるなど不都合が大きいため、あまり前倒しで解雇通知を行なうこともまた望ましくない。
【税関】 華南では加工貿易に従事する企業が多いため、保税原材料の理論値と実際在庫の差異に対して申告漏れを指摘されるケースが特に多い。
そのような差異は、過去の手冊上での単耗、損耗、浄耗の設定ミスにより生じるものだが、税関の抹消登記を行なう際には差異分に対して関税と増値税が課されることになる。
清算に時間がかかる原因の一つが、これら申告漏れの調整や政府との折衝であることが多い。
なお、関税と増値税の追加納付金額の計算式は下記のとおりである。
関税税額=現在輸入した場合の通関価格×関税税率
輸入段階増値税税額=(現在輸入した場合の通関価格+関税)×17%【税務】 税務に関しては、増値税、企業所得税、個人所得税、印紙税などの個別の申告漏れ(個人所得税の過少申告や、サービス料に対する営業税未納など)が問題となりうることはもちろんだが、過去の優遇政策に由来する追徴にも注意が必要だ。
つまり、過去に「二減三免半」などの外資優遇政策を利用した企業については、当時申告した経営期限に満たずに会社を清算するためには、過去に減免された税金額を遡って追徴される可能性が高い。
清算は設立以上に手間がかかるものである。十分に時間をとって事前分析や清算計画を行なうべきだろう。
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上原尚大(
青葉ビジネスコンサルティング・シニアコンサルタント)/東京出身。東京大学大学院修了。大手食品メーカー、広告会社の人事を経て現職。広州にて中国法務アドバイザリーに従事。専門は人事労務。趣味は食べ歩き。