9月18日を中心とした反日デモの動きは日本の各メディアでも大きく伝えられました。
日本側の情報はともすれば日系自動車の破壊や店舗襲撃といった耳目を集める刺激的なものに流れがちであり、現場での実際の影響は必ずしも正確に伝わっていない観を受けます。
今回は広東省内の実状、ならびに今後予想される影響について簡単に紹介してみましょう。
地域ごとに大きく異なる影響 中国各地で大規模な動きがあった一方で、例えば広州中心部では「相対的には」平静でした。
総領事館のある花園ホテル近辺から日系企業も多い天河区にかけてデモ行進が行われ、花園ホテルでは窓ガラスが割られ、また日系自動車メーカーの看板が引きずり降ろされて焼かれる、などの被害がありました。
しかし、全体としてはデモはコントロールされていたように見受けられました。筆者は広州在住で、18日は比較的安全な場所からデモの様子を見ましたが、デモ隊の中心地域はともかく、その他地域はいたって平静でした。
弊社の日系顧客とも随時連絡をとっていましたが、郊外の会社などは通常営業をしていたとの声も多くありました。
広州市民や周囲の中国人の反応としても、もちろん日本製品不買等の日本に対する怒りの表明もある一方で、むしろデモに伴って行なわれた交通規制と公共交通の麻痺を嘆く声のほうが大きく、ましてや広州でも一部で行なわれた破壊行為については、「一部のよそ者が組織的に行ったもの」「むしろ広州の恥」という否定的な意見が目立つ印象です。
日系企業への影響 デモ本体よりも、むしろ考慮すべきは今後の影響でしょう。
上述のとおり、一部日系企業では賃上げを求める便乗ストや反日にかこつけたサボタージュなどで生産活動に影響が生じており、動きはなぜか非日系企業にも広がっているとも伝えられます。
また、日系自動車メーカーが減産を決定したことは、関連部品メーカー全体の生産縮小をもたらし、広範囲への影響は避けられません。
少なくとも12年第4四半期から13年にかけては、損益計画の見直しは避けられないでしょう。
また、日中間の外交関係がゴタゴタした際につきものの、ビジネスにおけるさまざまな不都合が再び繰り返されることは避けられないでしょう。日中の末永い友好を願う者としては残念な限りです。
これからは、さまざまな計画外の要素を考慮に入れなければならない可能性を念頭に置きつつ、若干余裕をもった生産、出荷計画、進出計画を立てるなど、各自のビジネスモデルの脆弱性の洗い出しと対策検討が必要でしょう。
各地区の商工会や総領事館などからも積極的に情報収集し、同時にそれらをタイムリーに本社に報告しておくだけでも、不測の事態が発生した際の対応には大きく差が出るもの。備えあれば憂いなしです。
ただし、同じ広東省でも深圳では大規模な破壊行為があり、また広州郊外や東莞でも、工場従業員によるサボタージュや、日系以外の企業を巻き込んで便乗ストライキが広がる動きもありました。中国、広東省といった大きなくくりで影響を論じることは間違った結論を導きかねず、注意が必要でしょう。
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おかざわ・ひろこ(
青葉ビジネスコンサルティング・シニアコンサルタント)/横浜出身、日本大学新聞学科卒。中国のIT会社勤務を経て現職、中国歴6年半。主に中国進出全般のアドバイザリーに従事。特に知財コンテンツ関係に詳しい。趣味はパン作り。