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藤田康人
ダニスコジャパン株式会社 マーケティング・ディレクター [ マーケティング ]
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藤田康人
[インタビュー]
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トップマーケッター2人が語る、マーケティング2.0戦略(2)
2007.01.10
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キシリトールとキットカットのブレイク。 その裏側とは?
ダニスコジャパン株式会社 マーケティング・ディレクター 藤田康人氏 マーケティング・コミュニケーション・ユニットMUSB クリエイティブ戦略家 関橋英作氏
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(5)ブランディングとは「好きになってもらうこと」【関橋】僕は外資系の広告代理店で長く働いてきて独立しましたが、いわゆるブランディングっていうことを一番最初の下敷きにして、全ての広告活動を考えているんです。 今の広告業界は、クライアントから案件が来てそれにどう答えるという、クライアント・レスポンス型の仕事のやり方をしている。しかも、もともとがメディアエージェンシーとしての生い立ちだから、まずはメディアを売る。それにサービスとしてクリエイティブがくっついていくという感じ。このまま行くときっと広告代理店っていう業態はシュリンクするなと思ったんですよ。そうこうしているうちに、業界が4つぐらいのグループ、WPPとかインターパブリック、オムニコム、ピュブリシスに分かれていったんですが、良い状態っていうより末期的な症状という感じがしたんですよね、私としては。 それで、広告というビジネスを、もう一度コミュニケーションとして捉える必要があるなあ、と感じていました。人が人に伝えて、感動してもらって、それでモノが動く。そういう原点にもう一度立ち返らないといけないなと僕は思ったんですよ。 数年前にある新聞社が調査して、「モノを買う時に広告を参考にしますか」と聞いたところ、約6割位の人が「しない」って言ったんですね。「これは酷い、こんな状況なのに何をしているの?」そう思っている頃に、たまたまキットカットの仕事が来たんです。 キットカットは30年位ずっと博報堂がやってたんです。宮沢りえとか出てきて「ブレイクしない?」とか、いわゆる物理的な休憩みたいな感じだった。その頃のチョコレート業界は、ポッキーがダントツで電通、二番目がキットカットで博報堂みたいな感じだったんですが、ポッキーにはすごく離されていたんですよ。 調査してみると、高校生というターゲットの中で、キットカットを自分のブランドだって思っている子は殆どいないんです。家に帰るとお母さんが袋入りのキットカットを置いてあるから殆ど全員知ってはいる。でも「別に?」という感じ。これはブランドとしては非常にやばい状態なんです。これをどうにかしなきゃいけないという問題が僕らに投げかけられたわけです。 その時に、これは今まで通りに、CMをベースにしてやっていても、結局何も効果がないだろうと思った。CMって一方通行じゃないですか。こっちから、顔も見えない相手に対して投げかけているだけで、しかも15秒と30秒。そんなものワークするワケない。だからこそ、もう一度キットカットというブランドのことをきちんと考えなきゃいけない、そう思ったわけです。僕が思っているブランディングってすごい単純で、好きになってもらうことなんですよ。大好きになってくれたり、大好きな人がどんどん増えていくと、そのブランドが強くなる。パワーブランドになっていく。ものすごく単純に考えてるんですね。 まず、ノーティスとかアテンションとか認知、こっちを振り向いてもらう。それでちょっと試してみて、「いいかも」って思う。そうなると、自分の選択肢の一個に入れてもいいと思いますよね。そのうち何回も使っているうちに、「お、結構いいじゃん」。そして、大好き、ラブになると思うんです。そのラブになると、ブランドと消費者には絆が出来る。それを僕らはボンディングと呼んでいるんですけど、そのボンディングを強くすればするほどブランドは強くなる。 昔はたくさんの人が知っていればいるほど、モノは売れると考えられたんですけど、今は、少ないけれど、ものすごい大好きな人を増やすことのほうが大事。結果的に、その方が財布の紐は緩む。好きな人から、「アレいいですよ」と言われると「あぁそうですか」って信用して買いますよね。それと同じ構造じゃないかと思うんですよ。 (6)広告を捨てて消費者に近づく【関橋】やっぱり心を動かす、好きにさせる事が一番大事なこと。そう思って始めたのが受験キャンペーンでした。あれは非常にセンシティブで、実は九州の大宰府の辺りで福岡県の高校生が本当に地味に自分達だけでやっていたんですよ。 【藤田】オリジンがあったんですね。 【関橋】あったんです。それを聞きつけた。「福岡弁で必ず勝ちますよって何て言いますか?」と聞くと「きっとかつと」って言うんですよ、本当に。嘘〜!みたいな。まんまですよね。それで、福岡の高校生達がキットカットをお守りにしていた。この話をネスレのコンフェクショナリーの社長から聞いた、。相談されたんです。 これは単純なダジャレじゃなくて、自分達が不安な時にすがるお守り、という意味ですよね。それだから、マスで広めると嘘くさいじゃないですか。彼らにとってシリアスな話題なのに。それで最初に、たった一枚のポストカードを作った。桜が満開のカード、そこにきっとサクラさくよ、っていうコピーが入っている。 その葉書とキットカットを、東京とか大阪に試験を受けに来る受験生が泊まるホテルの人に渡してもらったんです。「頑張ってね」って言葉を添えて。 たったそれだけだからすごいコスト安いんですけど、ものすごく沢山の感謝の手紙が来たんです。「本当に不慣れでドキドキしてたんですけど、ホテルの人が優しくキットカットをくれて頑張ってねって言ってくれて安心しました」「受験の時の休み時間にキットカット食べたら落ち着きました」とか来たんです。 「これだ!絶対これだ!」と思いましたね。案の定、消費者の心を動かして、少しずつ広がっていったんです。 次の年がトレインジャック。広告というよりも、お母さんとか近所の八百屋さんとか塾の先生のメッセージをバーッと載せたいわゆる『サクラサク電車』みたいなものだった。それに乗ると縁起が良い感じがする、と。やってみたら、「あれすごく良かった」とネット上で検索するといっぱい出てきました。そういうことを少しずつ積み重ねてきたんですね。それで、1−3月時期になると、今までの数倍売れたりするわけです、信じられないことに。 その結果を見て、周りがダジャレでいろいろ『キッチリトール』とか『ウカール』とかそういうのが出てきたわけです。 【藤田】キッチリトールは僕らがやりました。キシリトールで。真似させていただきました(笑)。 【関橋】2006年は、本郷三丁目でやりました。今回、は商店街の人達とのコラボレーション。本郷三丁目駅のところから東大の赤門までをサクラロードにしたんです。街灯をピンクのイルミネーションで巻いたりして。当日偶然にも雪が降ってドラマチックでした。商店街の人がお汁粉出して「頑張ってね」って声をかけたりして、自発的に商店街の人達が応援してくれました。 驚いたのは、その日の出口調査なんですけど、なんとセンター試験を受けに行った4人に1人が会場にキットカットを持ってきていた。「うっそーーーー!」と私も思いました。もちろん一つの出口調査なんで、全体にするとどうか分からないんですけど、それぐらいキットカットが受験生のお守りとして定着した証拠と言えるでしょう。 このときばかりは、とうとう、キットカットはチョコレートというブランドを超えたなっていう気がしたんですよ。応援する、勇気付けるブランドになったなみたいな。 こんな風に僕らは或る意味でCMを捨てて、消費者に近づいていって心を動かすっていうようなことを始めたんですよ。
(7)ニュースを作れ【藤田】その時の得意先からの具体的なオーダーというのは? まさに今仰ったようなトータルなことってあまり日本の企業だとない。オーダーとして来ないんですけど、ネスレさんの場合はどういうミッションとしてオーダーが来たんですか? 【関橋】ネスレってコンフェクショナリーとか水とかコーヒーとか分かれてるんですよ。コンフェクショナリーの社長が素晴らしい人なんですよ、藤田さんみたいな人。本当に。 【藤田】いえいえ(笑)。 【関橋】それで広告じゃなくて、まさにさっき藤田さんが仰っていたPRとかニュースを作ろうと。社長は僕らに「ニュースを作れ」といつも言っています。要するにニュースを作るっていうことは社会的な事になるっていうことですよね。 【藤田】ソーシャルになる、パブになるわけですね。 【関橋】そうすると信頼感が生まれて、広告じゃなくなる。色眼鏡で見ずに何となくそのまますっと入ってくる。 僕らがやってきたものは、なんとイギリスのBBCも取り上げたんですよ。日本でこんなことがあると。朝日新聞の天声人語にも出ました。僕は藤田さんと全く同じ事をやっているんですよ、ニュースを作るというミッション。 【藤田】そういう意味では我々も実はやっていて、オーナーからそういうミッションが出たりすると結構のったりするんですね。ところが、そういう優れた事業部長だったりマーケティングディレクターがいればいいんですけれど、組織としてはなかなかそれは起きないんじゃないですか? 【関橋】そうなんです。なかなか起きないんですよ。ですから本当にラッキーでした。そうやってキットカットっていうのは、どんどん受験生とか高校生に近づいていった。 もう一つやったのが、音楽の新しいチャネル作り。受験の後はやっぱり卒業、旅立ちですよね。それでやったのがサプライズライブ。明日に向かって旅立つ若者を後押しする、卒業式のライブ。校長先生が挨拶している間、幕の後ろ側でイナゴライダー(175R)とか木村カエラが待機してて、校長先生が「君達、頑張ってくれ!」とか言った後に「じゃあプレゼントがあるよ」ってジャーンと出てくる。 皆、「あっ!」とか「キャー!」てな感じで本当に狂ったみたいに喜ぶんですよ。木村カエラとか175Rのショーゴ(SHOGO)が、例えば「高校っていろいろ辛いこともいっぱいだけど、友達が出来るからいいじゃないかー!」と言うと「イエーッ!」とかって言ったりする。同じ事を先生が言っても絶対そうはいかないですよね。そういう風にして、キットカットはただその場を提供しているだけでいい。高校生の心は「キットカットありがとう」みたいになる。 これもまた何か出来るなということで、こっちからブリーフィングして、アーティストに旅立ちをテーマにしてオリジナルの歌を作ってくれと頼んだ。それをキットカットと一緒にしてCDパックにして売ったんですよ。そうしたら、あっという間に50万枚も売れた。 【藤田】すごい話題になりましたよね。 【関橋】ええ。それなら、音楽レーベルを作ろうということでできたのが、ブレークタウン・レーベル。今キットカットが持っているんですよ、チョコレートブランドなのに、音楽レーベルを。 或る意味でレコード業界に「ご免なさい」しないといけない。最初はすごい批判されましたから。向こうで出さずにこっちでしか売らない。 【藤田】すごいインディペンデントレーベルが出来ちゃった、という話ですよね。 【関橋】そうやって、新しいチャネルを開発していくことで、またニュースが出来ます。これもまたもう一つのニュースなんですよ。 そういうことをずっとやり続けていても、社長からまた新しいことをやりなさいって言われるんです。 【藤田】それってやっぱり得意先に成功体験があって、そのことが効果があるということが共有化されているんで、どんどんいろんな提案をしていっても受けてもらえる素地が出来てきている。 【関橋】でも最初は、ゼロからのスタートでした。 今では、インターネットのショートフィルムって当たり前ですよね。それを最初に日本で火を点けたのは、多分キットカットだと思うんです。それが、岩井俊二監督の「花とアリス」。 数年前、BMWがそれまでやっていたCMをやめてショートフィルムに変えたのをカンヌで見て、この手はあるなと思った。15秒で伝えきれないキットカットの思いみたいなものが伝えられると。 問題はそのフィルムを誰が撮るか。僕の中では、岩井さんしか思いつかなくて、口説くのにちょっと時間がかかったけれど、承諾してもらった。よし!と思って、意気込んでプレゼンしたんですよ。そうしたら、「誰が見るの? 何人位見るの?」と言われて。その頃はまだブロードバンドが1千万も言ってなくて、冷や汗をかきました。 【藤田】You Tubeもまだ無いし(笑)。 【関橋】影も形も無い。ブロードバンドじゃない人が多いから、本当に映像で見られるのか僕らも不安だったんですけど、その時に今の社長が「じゃあリスクを取りましょう」と言ったんですよね。 そのひと言がすべてを決めた、いまからすると、そう思えるんです。それで図に乗って、さらに僕は、フィルムの中にキットカットを出すのは止めましょうって言った。なぜかと言うと、フィルムが流れていて突然キットカットが出てくると、消費者って馬鹿じゃないので「あぁ、やっぱりCMの長いのなのね」っていう風に思われる。それが恐かった。でも、分かっていただいたんですよ。すごい人です。 それで実際にオンエアすると、本当に大勢がBBSに書き込んでくる。「いつ出るかな、と思ってたんだけど出なかった。太っ腹!買ってあげる」みたいな感じで。仕込みじゃなくてそういうのが出てくるんですよね。僕は50万人くらい見ればいいかな、と思ってたら300万人見てくれた。実際に見た人の89%がその後買ったり、91%の人がこのフィルムは良いよって、友達に伝えたことがその後の調査でわかった。 本当に内容が良ければ、プロダクトなんか出なくてもいいなって思った。そのことが僕に自信をつけてくれましたね。
(8)メディアを作れ【藤田】まさに今仰っていたようなやり方が僕らから見ていても、多分ゴールなんだろうなって思うけれど、広告代理店という業態からしたらそれをどうやってビジネスとしてペイさせるかっていうのがあるんじゃないか。僕らも電博はじめ、まさにそういう論議をずっとしてるんですけど、彼らの今のビジネスモデルとしてはメディアを扱って何%ということにしかならないじゃないですか。僕らはお客さんからフィーをいただく中で、情報クリエイティブフィーっていうのをかなりの金額いただく前提があるんでここまでやれるんですけど、得意先の中でそういうフィーをなかなか払える文化って無いじゃないですか。 【関橋】 うん、無いですよね。 【藤田】そういう意味では今どういう風にビジネスとして成立しているんですか? 【関橋】 たまたまネスレは外資系、僕らも外資系なのでタイムフィーっていう考え方はわりとすんなりいったんですよね。でも、電博はどうでしょうか? 【藤田】ですよね。儲からないじゃん、みたいな。 【関橋】 儲からないですよ。自分達の枠組みを壊すようなものですから。僕らとしては良いんです。電通とか博報堂みたいに大きくない代理店だったら可能性があるわけです。ですからテレビをやらなくても、大きいメディアを使わなくても良い仕事、本当にゴールを達成するための方法論さえ見つければそれに対してお金は払われるということです。 【藤田】そうですよね。そこで実は我々のパートナーとしてはJWTを含めて外資の会社のほうが文化的には合うし良いだろうってことでかなり話をしてきているんですね、ここ何年か。ですが、仰るのは分かるんだけど、結局得意先がそれを払う文化っていうのがまだ無いんで、自分達としてはなかなかそこに踏み込んで行けないんだ、というお話になるんですが、その辺はどうでしょう? 【関橋】 多分成功体験ですよね、必要なのは。違うやり方、今までと違うコミュニケーションの仕方をして、成功すると多分理解されます。成功しないとずっと今まで通り、テレビがどうこう、というようにメディアがいつも先にある。 メディアニュートラルという言葉があるんですが、上も下もaboveもbelowも無いということです。僕はそれ以上に、メディアニュートラルよりもメディアは作るものだと思ってます。作ったほうが良い。何でも有りなんですから。 僕がずっと思っているのが、クリエイティブなアイデアがありきだということ。クリエイティブなアイデアと言ってもいわゆる表現のアイデアじゃなくって、或る意味で戦略を含めたアイデアのことです。 最近、僕は勝手に「クリエイティブマーケティング」と言ってる。マーケティングの川下にいるクリエイティブのほうからずっと逆流して行こう、みたいな。ですから、さきほど仰っていたように、情報クリエイティブっていうのは全てのプロセスがクリエイティブじゃなきゃ駄目なんですよね。そのために、僕らにとってすごく良かったのは、クライアントの社長とクリエイティブの僕と戦略プランニングと営業のボスの4人がいつもグジャグジャ話せたこと。脳のシャッフルみたいな感じです。 (9)成功体験だけが変えられる【藤田】我々の作業で一番大事なのは実は我々のことではなくて得意先のことがすごく多い。我々のプランを受け入れてもらうために、得意先の組織とかバジェットをリフォーメーションして僕らがフィーと呼ぶものを受け入れられる文化を作る。下手すると何ヶ月とか何度もタダでプレゼンしないといけないんですけど、今やっぱりそこから入らなきゃいけないっていうことで、非常にビジネスとして効率が悪いんですね。どこかで多分得意先が或る瞬間に変わってくるんじゃないかなと思うんですけど、そのタイミングはいつなんでしょうね。 【関橋】 僕はそれが変わらないと、いろんな社会が全く変わらないと思うんですね。破綻しているじゃないですか、もうそろそろ。 【藤田】そうですね。 【関橋】 ですからいろんな人が、たとえば、藤田さんとか僕とかが行って変えていけばいい。僕は今JWTは辞めて戦略プランナーと二人でMUSBって書いて『ムスブ』、人と人を結ぶ、人とブランドを結ぶといういわゆるユニットを作ってやっているんです。いろんな所に行って、例えば熊本の温泉で駄目なところを立て直すとかね(笑)。そういう共通点がとてもあるなって、先ほどから藤田さんのお話を聞いていてそう思います。 【藤田】僕はたまたまキシリトールという比較的良いものがあって、まずそれがあるからおそらく得意先も聞いてくれる。それで、「お前今回の案件出来るの?」って言われて「出来ます」とは言えないんです。でも「これとこれは出来たんで出来るかもしれません」と(笑)。 【関橋】 全く同じですね。僕もキットカットがあって、今そうやってCMのようなマスメディアを使わないでうまくいった、という成功体験を持ってる。そういう人がマーケティングの世界を変えていくしかないと思います。口コミ、バズとか言っても実感無いわけですよ、彼らは。「じゃあどうなるの?」みたいな。実際にやってるとやっぱり強いですよね。 【藤田】僕もそう思っています。でもそんな成功体験ってまず日本にはあまり無いじゃないですか。正直言って。 【関橋】 無いんですよ。実は無いですよ。 【藤田】そういう意味で我々は非常にレアな体験を持っていたりするのかもしれないですね。 【関橋】 例えば同じJWTの中でもケーススタディやるんですよ。みんな「おっ、いいね」と言っても、やってる人は少ないんですよね。 【藤田】とりあえずコネクト事業部を含め、私何度も行きましたけど「それいいよね」とか言うんですけどオーダーは来ないんですよ。 【関橋】 だから、そういう風に実感で思ってやれる人がいないんですね。いろんな企業に行きましたよ。「あれ聞かせてくれ」と呼ばれる。「いいねえ」って言いながら「じゃあ」ってプロポーザルしても結構動かないんですよね。 【藤田】ものすごくポテンシャルもあるし、多分これしかないんだと思いながら、それを受け容れられない得意先って何なんだろうなってすごく感じる。 【関橋】 それはやっぱり日本人の前例主義とか、固定観念とか常識ですよね。僕はずっとこの世の中とかマーケティングを見てましたが、非常識が必ず常識になっているじゃないですか。やっぱり非常識を愛していかないと駄目。非常識を愛そう、みたいな(笑)。非常識も成功すれば常識になるんだから。 ずっと前の1990年位の話なんですけど、僕はハーゲンダッツもやったんですよ。1990年当時は成人男性はアイスクリームなんか食べなかった。「人に見られたら恥ずかしい」とか言って。それがプレミアムアイスクリームとして高いアイスを出したら変わった。アイスなんて女子供のもの、みたいな観念を変えるには或る意味で非常識に挑戦しないといけない。 その時はまだインサイトなんていう言葉は無かったんですけど、僕はアイスクリーム好きの女の子10人位に聞いて歩いたんですよ。食べて『幸せ』とか『好き』とか『嬉しい』とかいろいろ言うけど、一人の女の子が『死んでもいい』と言った。「ウソ〜!死んでもいいの?」って。 【藤田】アイスぐらいで。 【関橋】 僕はそれを聞いた時に「あ、それだ!」と思ったんですよね。アイスクリームって普通のお菓子と違うんだなって。エモーションで食べる食べ物なんだなって思った。 【藤田】そういう時にですね、例えば調査とかデータとかっていうのはどのぐらい重視されますか? それともひらめきとか感性とか? そのバランスはどんな感じで? 【関橋】 藤田さんがさっき仰ったように、仮説ありきですね。先に仮説が無い調査しても無意味ですね。そんなものお金の無駄。仮説があってそれが正しいか正しくないかそれを調べたほうがいいんですよ。間違っていたら止めるし、ちょっとだけ違っていたらこう考える、みたいな。 ピラミッドは先端から作るって言われていますよね。下から作っていくと台形のままで終わるかもしれないけど、先端から作れば最後にはちゃんとしたピラミッドになる、それと同じですよね。 (3)に続く
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