□綺麗にノートをまとめることが勉強ではない――――この本の中でも書かれていますが、安河内さんご自身がもともとすごく勉強できるというわけではなかったところから、グッと成績を上げられたということでしたが。
そうですね。本当に何がきっかけになるかわからないものですが、私の場合は、現役で西南学院大学を受験したことがきっかけだったんです。――――名門ですよね。
外国語学科の英語専攻が名門なんですよね。そこを受けたんです。そして落っこちて、補欠で英文学科の方に引っかかったんですが、そこでどうするかを悩みました。考えに考えて、「やっぱり補欠で行っちゃったらダメだ」と。「落ちたのは落ちたのだから、もう1年やろう」と。でも、ものすごく悔しかったんですよ。悔しいから勉強しました。意地みたいになってね。それがよかったんだと思うんです。この本にも書きましたが、やはり失敗したときにどうするかで、その人のバネというか、バネの強さが鍛えられるじゃないですか。私の場合は、受験の失敗がきっかけでバネがぐんと伸びたというか、バネが強くなった。結局、悔しかったのがきっかけで頑張ったんです。突然変異みたいなものですよね。それまでは、そんなに勉強しなかったんですけどね。――――ちなみに浪人時代は、すごく時間がありますよね。要するに、ひたすら勉強できるから、量でなんとかこなせるというふうになりがちではないかと思うんです。そこであえて、勉強法を編み出されたということですか?
そうですね。私の場合、もともと東京生まれの人なんかは、早稲田、慶應に行くために小学校のときから塾に行っているんです。幼稚園で塾行って、小学校で塾行って、中学校で塾行って、高校で塾行って、中学受験、高校受験をやっているわけでしょう。私なんて、ド田舎の高校に通っていたわけですからね。ド田舎なんて、先生方に申し訳ないですけど。福岡県立宗像高等学校の先生方、どうもありがとうございました。まあ、とにかくド田舎の普通の高校に通っていたわけですよ。早稲田、慶應なんて、あんまり考えない。その差を1年間で取り返さなくてはいけないから、東京生まれの人が1年間予備校で勉強するのと、私が1年間勉強して伸ばさなければならない量というのは、全然違ったわけです。正しく言えば1年ではなく10ヶ月ですよね。10ヶ月で1日12時間勉強してもギリギリです。受験も当時は競争率40倍などと言って、難しかったじゃないですか。――――すごかったですよね。
今は4倍ぐらいですけども40倍とか、30倍とかでしたね。そういう中で、1年で伸ばさなくてはいけない量が尋常じゃなかった。だから1日12時間ドカッと勉強したとしても10ヶ月となると難しい。それを埋めなくてはいけなかったから、時間はあるようでなかったわけですよ。だから短い時間でいかにしてやるかということを、考えなくてはいけなかったんです。そのために、どうやったら効率的にできるのか予備校の先生の話を聞いたりいろいろ考えたりしながらキュッとつめて、毎日12時間ぐらいやってみました。それはこの本の中にも書きましたが、時間対効果を上げるための勉強法をいろいろとやったんですよ。そして受験でうまくいったことで味をしめて、資格試験でもうまくいくんじゃないかとそれを応用して、だんだんそれを磨いていって、自分の中で1つの試験哲学として作りあげました。それを本にまとめたんです。――――実際に勉強法として確立したものが、資格にも通用したということですね。
そうです。――――それを現在では生徒さんに指導して、また結果が出ているのですか。
そうですね。生徒の皆さんも、だいたい勉強法そのものがよくなくて、成績が上がらない子が多い。例えば高校生の授業をしていると、日本の学校教育というのは小学校のときからノートに下敷きを敷いて、きれいに書いて、先生が判子を押して、とノートを取ること自体が勉強のようになっているんです。そういうふうに完全に思い込んでしまっている。だから中学、高校とそれを続けていると、高校生になったら世界史の勉強といって、ノートのこっちに年表が書いてあるのに、またこっちにもきれいに線引いて色分けして、その年表を写して……。
どうしてこっちに書いてある年表を、また書かなくてはいけないのか、私にはわからないんです。そういう高校生には「コンビニに行くとコピー機というものが置いてあって、それに10円入れるとコピーできるから」と教えてあげるんですけど、みんな勉強というものを勘違いしているんですね。
私の定義においての「勉強」というのは、頭の中にぶち込むこと、頭を鍛えることなんです。これ以外の勉強があるというなら、教えてほしいくらいです。きれいに資料をまとめて、資料を集めてホチキスで留めてファイルしたりすることが勉強なのか、ルーズリーフにインデックスつけてシールをこう貼っていくのが勉強なのか……そんなもの、勉強でも何でもないんですよ。勉強は頭にぶち込むこと。これだけなんです。□40代50代ほど勉強するのに恵まれた環境はない!――――社会人向けの勉強についてもお聞きしたいのですが、社会人となると勉強というものを疎かにしている人が結構多いと思うのですが、ご著書で目覚めた方がたくさんいらっしゃると思うんです。
本当にありがとうございます。――――やはり社会人になっても勉強はしたほうがいいと?
勉強は一生やらなくちゃいけないし、年を取れば取るほどみんな言うじゃないですか「あのとき、勉強しとけばよかったな」って。意外に若いときは……「若いときは」なんて言うと、もうおっちゃんになった気分ですけど、高校生ぐらいのときはなかなか気づかないんです。でも大人になって飲みに行ったりすると、みんなが「いやー、あのとき、勉強しておけばよかったな」とほぼ99パーセントの人が言いますよね。
それなら、やればいいじゃないですか。人間って、今は70歳でもピンピンしている。70歳でも80歳でもピンピン活動しているわけだから、私たちの年、40代なんてまだ若者ですよ。だから別に42歳から始めてもいいし、45歳から始めてもいい。「若いときやればよかった」なんて言う前に、今やればいいんです。――――「40になったら記憶力が衰えた」と言う人いますよね。
それはわからないですけどね。でも、できるでしょう。金大中(キム・デジュン)さんはかなりご高齢ですが、40歳か50歳から英語の勉強を始められて、それで英語で本を書かれたそうですよ。ですから、脳の働きが年をとるにつれて鈍るのは確かでしょうが、私は本にも書きましたが、一方で40代50代になると、時間とお金がありますよね。時間とお金は、勉強においてはやはり非常に重要な要素なんですよ。20代30代というと、会社でもバリバリに働く時期ですから、時間なんて全くないんです。私もそうでした。だから、勉強のために時間を作ることにものすごく苦労するんですけど、40代50代ぐらいになると結構立場が上になってくるので、時間をある程度自由に使うことができるんですよ。そして、お金にもある程度余裕が出てくる。勉強に関しては、もちろん脳は衰えるかもしれないけれども、そういったその他の環境面はよくなってくるわけだから、総合的にみて40代50代での勉強はプラスでしょう。――――この本を読まれた読者の中には、おそらく40代の方も多いんでしょうね。
同年代の皆さんに読んでいただいて、本当にありがたいです。――――実際に反響などありましたか?
お手紙とかたくさんいただきますが、結構高齢の方とか、あとは中学生とか、それから40代30代の方、つまり私と同じぐらいの世代の方にもたくさん読んでいただいています。
(3)に続く